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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《宝永噴火(ほうえいふんか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 頁

青空文庫

快い朗らかさで身も浮く様に覚える時さえある。だがそれが肉体や精神の全部を支え上げて呉れるわけではない。却ってその全部が高く揚れば揚る程取り残された部分の肉体や精神が鉛のように片側に重く残る意識が強くなって、しきりに反省を強いる。全くわれを忘れた有頂天にさして呉れない。もし、この分で行けば、自分のなかに高揚する部分と、取り残された部分とが、だんだん峯と谷のような違いを来たして、遂には自分という意識が二つに割れそうな気さえもする。慧鶴青年は詩箋に落す筆を控えて、再び迷い始めた。すると得意になって肩肘張り、なおも世に高名を求めようとする側の自分は取り残して行く未解決の側の自分を努めて忘れ去ろうとし、また未解決の側の重苦しい自分は忘れられて置き去りになるまいと、藻掻き、しきりに真面目で憐れな自分を見せつけ見せつけ縋りつくのである。自分の中の二つの争いには、ほとほと疲弊困憊した慧鶴青年は、何等か心を転ずるものを求めようとすればそこに、土足で乳のみ児の上を踏み躙って来るような無残な情緒が閃いて橘屋の娘の顔が浮ぶ。富士の冷く取り澄した姿が憎みを呼ぶ。

慧鶴は堪らなくなって、ついと立ち上った。