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じっけんしつのきおく

実験室の記憶

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《実験室の記憶(じっけんしつのきおく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,440 字 · 13 頁

青空文庫

しかし真空管のように、一度作って封じてしまう場合は話は比較的楽であるが、研究の場合は何遍でも装置を作りかえて、時々内部をひらいて中の器械をとりかえなければならないので『真空技術』に書いてある通りに一々やるわけには行かない。『真空技術』に書いてある真空の技術は、いわば、女学校でならう家計のとり方のようなもので、生きてどんどん生長しつつある家庭は、その知識だけでは切り盛り出来ない。

電池と真空ポンプと測定装置との外には、ほとんど室の飾りになるような器械はなく、がらんとしたうすら寒い地下室であった。実験室全体の感じが薄蒼くすすけていた。

どこか中世の匂いが残っているこの実験室の中には、印度人の留学生が三人もいた。その方がかえって優秀な学生で、男女の英国人の研究生も実験室番の助手も、あまり映えない方であった。要するにこの実験室の雰囲気は、当時としては最高の真空で仕事をするという種類の研究には、不似合いなものであった。

ところがここでしばらく仕事をしているうちに気がついたことは、この実験室のどこかに、真空技術の知識が浸みこんでいると感じたことである。三、四カ月ここで働いていると、大抵の学生はいつの間にか真空に馴れて、10-6ミリの真空が普通になってくるのであった。