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ふじ

富士

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《富士(ふじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 頁

青空文庫

女神が捧げものを徹して持ち帰る姿が望まれた。

翁は堪られなくなって声をかけた。

「娘よ。福慈神よ」

それは始めから哀訴の声音だった。

女神の片眉が潜められたが声は美しく徹っていた。

「あら、まだ、そこにいらっしゃいますの。お寒いのに、なぜ、おとり申上げた村里の宿へお出でになりませんの」

翁は頑是ない子供が、てれながら駄々を捏ねるように、掌に拳を突き当てつつ俯向き勝ちにいった。

「寂しいんだよ」

「では、どうして差上げたらよろしいのでございましょう」

「どんな端っこでもいい、おまえの家へ泊めとくれよ」

翁の声は小さかったが強訴の響は籠っていた。「おまえの居ると同じ屋の棟の下にいれば気が済むのだから、決して祭りの邪魔はしないのだから」

「それが、おさせ申上られないことは、お出でにすぐ申上げたではございませんか。無理を仰しゃっては困りますわ」

娘の声は美しく徹ったまま、山が頂より麓へ土を揺り据えたように、どっしりとした重味が添わって来た。その気勢に圧せられた翁は、却ってあらがう気持を二つ弾のような言葉で、あと先立て続けに女神へ向けて放った。

「情のこわい女だぞ」「何をまだ、この上、親を断っても修業の祭をしようというのだ。