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ふじ
富士
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《富士(ふじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 頁
従来、ただ天気の変りを予知さすだけに、峯の頂の天に掲げ出した、笠なりの雲も、近頃では、その色を黒白の二つに分け、黒の笠雲の場合は風雨のある前兆とし、白い笠雲の場合は風ばかりの前兆としたようなこまかさとなった。
幾人の神人や人間が、この女神に恋をしたことであるだろう。女神は一々、まじめに、その恋を求むる男たちに見向ったらしい。だが何人がこの女神の逞しい火の性、徹る氷の性に、また氷火相闘つ矛盾の性に承け応えられるものがあったろう。彼等のあるものは火取り虫のように却って羽を焼かれ、あるものは虫入り水晶の虫のように晶結させられてしまった。矛盾の性に見向われたものは、裂かれて二重の空骸となった。それ等の空骸に向って女神は、涙をぽたぽた垂しながら、撫でさすり「可哀相に、いのちの愛までは届かぬ方」というというが、誰もその意味を汲取ったものはない。ただ女神にそういわれて撫でさすられた空骸は、土に還ると共に、そこからはこけ桃のような花木、薊のような花草が生えた。深山榛の木の根方にうち倒れた、醜い空骸は、土に還ると共に、根方に寄生して、そこから穂のような花をさし出すおにくという植物になった。