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さむはし

寒橋

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《寒橋(さむはし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 頁

青空文庫

お孝は暗い水を覗きこんで云った。

「――こんなに苦しいのに、あのひとが憎めない、憎いんだけれど離れられない、まえよりもあのひとが恋しくって、それでそばへ寄られると鳥肌の立つほどいやで、……独りになると死ぬほど苦しくなるの、ねえ、どうしたらいいの、教えて、おっ母さん、ねえ、あたしどうしたらいいの」

たぷたぷと岸を打つ波の中から、母の顔がすっと浮きあがり、手招きをしながらこう云った。

「――おいで、お孝、こっちへ、おっ母さんのほうへおいで……」

お孝はぞっと総毛立った。あまりにはっきり聞えたからである。そして後ろへさがろうと思いながら、ふらふらと逆に足が前へ出たとき、強い力で激しく肩を抱き緊められた。

「ばかなまねをするな、お孝」

耳もとでこう叫ばれ、はっとして、身をもがいてその手を振放した。

「なによ、なにがばかなことよ」

お孝は髪へ手をやりながら云った。

「むしむしして頭が痛いから、ちょっと川風に当りに来たんじゃないの」

「――お孝……」

時三は大きく喘ぎながら、ごくっと唾をのみ、片手を妙なぐあいに振って、それからしゃがれたような声で云った。

「すぐ帰って呉れ、お父つぁんが悪くなったんだ、おれはこれから医者へいって来る」