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てらさかきちえもんのとうぼう

寺坂吉右衛門の逃亡

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《寺坂吉右衛門の逃亡(てらさかきちえもんのとうぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,243 字 · 19 頁

青空文庫

一

「肌身付けの金を分ける」

と、内蔵之助が云った。大高源吾が、風呂敷包の中から、紙に包んだ物を出して、自分の左右へ

「順に」

と、いって渡した。人々は、手から手へ、金を取次いだ。源吾が

「四十四、四十五、四十六っ」

と、いって、その最後の一つも自分の右に置いた。内蔵之助の後方に、坐っていた寺坂吉右衛門はさっと、顔を赤くして、俯いた。と、同時に、内蔵之助が

「これで、有金、残らず始末した」

と、いった。吉右衛門は、口惜しさに、爆発しそうだった。

士分以外の、唯一人の下郎として、今まで従ってきたが――

(この間際になっても、俺を、身分ちがいにするのか?)

と、思った。悲しさよりも、憤りが、熱風のように、頭の中を吹き廻った。

(俺の心が判らないのか?――そんなら、もう仇討は、よしだ。――それとも、判っておるか? 太夫。判っているなら、何故、士分と、同じに取扱ってはくれん。今日までは、下郎でいい。俺は、下郎にちがい無いんだから――然し、今夜は、討入だ。討入ったなら、下郎の俺は、士分の人のように、武芸は上手でないし、一番に、やられると、覚悟しなくてはならん。