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てらさかきちえもんのとうぼう

寺坂吉右衛門の逃亡

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《寺坂吉右衛門の逃亡(てらさかきちえもんのとうぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,243 字 · 19 頁

青空文庫

江戸は、もうこの噂で持切りで、日本一の忠義の士だと、奥様、追々、ここへも知れて参りましょう。随分、御苦労を為さいましたが――」

吉右衛門は、そういいながら

(この人も、下郎も、丁度同じだ。どっちも、人間扱いにされずに――そして、されなかったから、一番いい籤を引くことになるんだ。妙な廻り合せになるものだな、人間っていう奴は――)

と、思っていた。いつの間にか、妻は、手を突いて、顔を伏せて、袖で涙をぬぐっていた。それを見ていると、吉右衛門は、何故か、自分も、悲しくなってきた。

八

「吉右衛門、切腹と、きまった」

と、いって、方丈が、入ってきた。

「はい」

「今、知らせが入ったからと、使がきた。お経でも、上げよう」

方丈が、そういっていると、村の庄屋の声で

「これを一つ吉右衛門さんに」

と、庫裡で、いっているのが聞えた。

「切腹に、な」

吉右衛門は首垂れてしまった。

「吉右衛門、短慮を起すでないぞ。この上は諸士の後生を、よく弔うのが、何よりの務じゃ。追腹切ろうより、何をしようより、弔って上げなさい。他人の百遍の念仏より、お前の一度の念仏の方がよい功徳になる」

吉右衛門は心の中で