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てらだとらひこのついそう

寺田寅彦の追想

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《寺田寅彦の追想(てらだとらひこのついそう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 頁

青空文庫

寺田寅彦という名前を、初めて知ったのは、たしか高等学校二年の頃であったように思う。

あの時代は、大正の中頃といえば、わが国の社会運動の勃興時代であった。河上博士の『貧乏物語』が、高等学校の学生たちの間に熱心に読まれていた。『中央公論』や『改造』の外に、新しく『解放』という雑誌も出て、それ等がいずれも、その方面の論文で雑誌の大半をうずめ、こぞって社会運動の烽火をあげていた時代であった。

しかしそれ等の論文は、いずれも非常に難解な言葉を使い、文章もまた難渋をきわめたものが多かった。それに何か熱病的な気配が、どの雑誌にも漲っていて、読後感は内容の如何とは別問題に、私などには極めて後味の悪いものが多かった。そういう時に先生の『丸善と三越』や『自画像』が中央公論に中間記事として現われたのであった。それは驚きであったばかりでなく、少なくも私にとっては、何か救いに似たような感じを与えてくれた。汗のにじんだ熱っぽい肌に埃がこびりつく、そういう時に一杯清冽な水をのんだような気持がした。その時の印象は今でも思い出すことが出来る。これ等の随筆は変名で書かれたものであるが、実は寺田寅彦という物理学者の筆によるものであることを間もなく知った。