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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁
仰向けた茶わんとうつ向けた同じ茶わんとが同一物である事を自得するまでにはかなりな経験を重ねなければならぬ。吾人普通の感官を備えた人間がこのような相違に気のつかぬのは遺伝や長い間の経験によって、外界の標準を外界に置いて非常に複雑な修練と無意識的の推理を経て来た結果にほかならぬのであろう。
吾人の理性に訴えて描き出す幾何的の空間、至るところ均等で等向的な性質を備えた空間は吾人の視感に直接訴える空間とは恐ろしくかけ離れたものである。視感的空間では仰向きの茶わんとうつ向きの茶わん、一里を隔てた山と脚下の山とはあまりに相違したものである。紙面に描いた四角でもその傾き方で全く別な感覚を起こしてもよいはずである。しかるにこのような相違を怪しまず当然としているのは、吾人が主観を離れた幾何学的の空間という標準を無意識あるいは有意識的に持っているためである。
同様な事は聴官についてもある。雷鳴の音の波の振幅は多くの場合に耳の近くで雨戸を繰る音に比べて大きなものではないのに雷の音は著しく大きいと考えるのはやはり直接の感官を無視して音響の強度の距離と共に感ずる物理的方則を標準としているのである。