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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁
遠足にしてはただ一人というのもおかしかった。よほど絵が好きなので、こうして油絵のできて行く道筋を飽きずにおしまいまで見届けようとしているのかと思ってもみた。
一度去った荷車と人夫は再び帰って来た。彼らの仕事しながらの会話によって対岸の廃工場が某の鋳物工場であった事、それがようやく竣成していよいよ製造を始めようとするとたんに経済界の大変動が突発してそのまま廃墟になってしまった事などを知った。
絵の具箱を片付けるころには夕日が傾いて廃墟のみぎわの花すすきは黄金の色に染められた。そこに堆積した土塊のようなものはよく見るとみな石炭であった。ため池の岸には子供が二三人釣りをたれていた。熔炉の屋根には一羽のからすが首を傾けて何かしら考えていた。
絵として見る時には美しくおもしろいこの廃墟の影に、多数の人の家の悲惨な運命が隠れているのを、この瞬間まで私は少しも考えないでいた。一度気がつくともう目の前の絵は消えてそこにはさまざまな悲劇の場面が現われた。
利欲のほかに何物もない人たちが戦時の風雲に乗じていろいろなきわどい仕事に手を出し、それがほとんど予期されたはずの変動のために倒れたのはどうにもしかたがないとしても、そういう人の妻子の身の上は考えてみれば気の毒である。