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からすうりのはなとが
寺田寅彦随筆集 第三巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第三巻(からすうりのはなとが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 213,804 字 · 425 頁
一番目の同じようなシーンでは観客はまだそこに現われる群集の一人一人の素性について何も知らなかったのであるが、この二度目の同じ場面では一人一人の来歴、またその一人一人がアルベールならびに連れ立った可憐のポーラに対する交渉がちゃんとわかっている。掏摸に金をすられた肥った年増の顔、その密告によって疑いの目を見張る刑事の典型的な探偵づら、それからポーラを取られた意趣返しの機会をねらう悪漢フレッド、そういう顔が順々に現われるだけでそれをながめる観客は今までに起こって来た事件の行きさつを一つ一つありありと思い出させられる。そうしてなじみになったアルベールとポーラのために一種不安な緊張を感じさせられる。それでアルベール自身の頭の中に経過しつつある不安な警戒の念が彼の絶えず移動する目のくばりに現われて、それが直ちに観客の頭に同じような感情の波動を伝えるのである。そうしておもしろいことにはこのシーンの伴奏となりまた背景ともなる音響のほうはなんの滞りもなくすらすらと歌の言葉と旋律を運んで進行していることである。もしもこれが無声であるかあるいは歌はあってもこの律動的な画像がなかったとしたら効果は二分の一になるどころかおそらくゼロになって、倦怠以外の何ものをも生じないであろう。