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こはるのきつね

小春の狐

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《小春の狐(こはるのきつね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,102 字 · 27 頁

青空文庫

」少年はあつい涙を知った。

やがて、世の状とて、絶えてその人の俤を見る事の出来ずなってから、心も魂もただ憧憬に、家さえ、町さえ、霧の中を、夢のようにった。――故郷の大通りの辻に、老舗の書店の軒に、土地の新聞を、日ごとに額面に挿んで掲げた。表三の面上段に、絵入りの続きもののあるのを、ぼんやりと彳んで見ると、さきの運びは分らないが、ちょうど思合った若い男女が、山に茸狩をする場面である。私は一目見て顔がほてり、胸が躍った。――題も忘れた、いまは朧気であるから何も言うまい。……その恋人同士の、人目のあるため、左右の谷へ、わかれわかれに狩入ったのが、ものに隔てられ、巌に遮られ、樹に包まれ、兇漢に襲われ、獣に脅かされ、魔に誘われなどして、日は暗し、……次第に路を隔てつつ、かくて両方でいのちの限り名を呼び合うのである。一句、一句、会話に、声に――がある……がある……! が重る。――私は夜も寝られないまで、翌日の日を待ちあぐみ、日ごとにその新聞の前に立って読み耽った。が、三日、五日、六日、七日になっても、まだその二人は谷と谷を隔てている。!……も、――も、丶も、邪魔なようで焦ったい。