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ろうじゅうのめがね
小笠原壱岐守
佐々木 味津三
線上閱讀佐々木 味津三《小笠原壱岐守(ろうじゅうのめがね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 頁
――老職多井がそれを気遣って言った。
「夜明けのせいか、めっきり冷えが増して参ったように厶ります。お微行のあとのお疲れも厶りましょうゆえ、御寝遊ばしましてはいかがで厶ります」
「…………」
「な! 殿!」
「…………」
「殿!」
「…………」
「きこえませぬか。殿! もう夜あけに間も厶りませぬ。暫しの間なりとお横におなり遊ばしましてはいかがで厶ります」
「…………」
「な! 殿!」
「…………」
「殿!」
そのとき、死像のように声のなかった対馬守が、ふいっと面をあげると突然言った。
「あすは十五日であったな」
「はっ。月次総登城の御当日で厶ります。それゆえ暫しの間なりとも御寝遊ばしましてはと、先程から申し上げているので厶ります。いかがで厶ります」
「それよりも予の目のうちには、あれがちらついておる。……屋台店の寂れがちらついておる……。たしかに十五日じゃな」
「相違厶りませぬ」
「しかと間違いあるまいな」
「お諄う厶ります」
「諄うのうてどうしょうぞ。月次総登城とあらば、諸侯に対馬の動かぬ決心告げるに丁度よい都合じゃ――硯を持てい」
「はっ?」
「紙料持参せいと申しているのじゃ」
いぶかり乍ら格之進が取り揃えた奉書を手にすると、対馬守はきりっと唇を決断そのもののように引き締めて、さらさらと書きしたためた。