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ろうじゅうのめがね
小笠原壱岐守
佐々木 味津三
線上閱讀佐々木 味津三《小笠原壱岐守(ろうじゅうのめがね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 頁
坊主は、檀家の後家をたらしこむから、即ち後家ごろし、――アハハ……。わしゃ、おん年十六歳のときその後家を口説いたことがあるが、それ以来、自分から思い立って仕かけたことはなに一つありゃせん。天下国家のためだか知らんがのう。斬るうぬは、憎いとも斬りたいとも思わないのに、人から頼まれてばかり斬って歩くのも、よくよく考えるとおかしなもんだぞ」
「馬鹿なっ。なんのかんのと言うて、隊長急におじけづいたんですか!」
「…………」
「折角京までつけて来たのに、みすみす大村の首をのがしたら、大楽どんに会わする顔がござりませぬぞ」
「…………」
「あっ、しまった隊長! ――二階の灯が消えましたぞ!」
「…………」
「奴、気がついたかも知れませんぞ!」
せき立てるように言った声をきき流し乍ら、直人は、黙々と首を垂れて、カラリコロリと、足元の小石を蹴返していたが、不意にまた、クスリと笑ったかと思うと、のっそり顔をあげて言った。
「では、斬って来るか。――小次! おまえ気が立っている。さきへ這入れっ」
飛び出した市原小次郎につづいて、バラバラと黒い影が塀を離れた。
あとから、直人がのそりのそりと宿の土間へ這入っていった。