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やまのゆざっき
山の湯雑記
折口 信夫
線上閱讀折口 信夫《山の湯雑記(やまのゆざっき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 5,401 字 · 11 頁
此辺の山間に居ないのか知ら。
時鳥は、其も時々だが、宿の前の右に山を負うた杉林の中で極って鳴く。忍び音と言うやつで、非常に声が小く、節が細かく聞きなされる。鶯ばかり居て、其外は、何の鳥も鳴かぬような山である。其ももう今になると、谷渡りなどは、あまり高音を揚げることが出来なくなっている様だ。山の傾斜や、少々坦らになったところなどは、大抵、篶竹が深く茂って居る。そんな中に籠って鳴いて居るのは、何処へ行っても、鶯の癖と見える。山へ来た当座は、毎日篶竹の笋が膳について来た。其中出なくなった。聞いて見ると、もう長け過ぎて歯に合わなくなったのだと言う。山では、昔から此地竹の笋を喰べて居たのに不思議はない。其が罐詰になって町場へ出るようになったのは、まだ十年にもならないことである。荒年続きで苦しんだ東北の農村で考え出したと言う新聞記事すら、まだつい此頃見た事のような気がする。
耳近く鳴く鶯は 篶のなか 青き躑躅の 時に立ち居る
おほらかに 人のことばの思ほえて、山をあるくに いきどほりなし
地竹に縁があるのもおかしいが、やっぱり今年は、度々これを喰べた。七月の五日、鶴岡の町であった先師三矢重松先生の歌碑の除幕式に出掛けて、其後ずっと出羽の山々を歩いて居た訣だが、あの次の六日の日は、羽黒山頂上の斎院で泊った。