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いわなのかい

岩魚の怪

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《岩魚の怪(いわなのかい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,259 字 · 9 頁

青空文庫

「どうぞ殺生しないように、物の生命をとったものは、きっとその報いが来るからな」

「皆と相談します」

「それでは、私はこれから往くからな」と、僧はあたりにいる人びとの顔を一わたり見て、斎にあずかった礼を云って、「どうぞ殺生しないようにな」

僧は静かに山路の方へあがって往った。人びとの眼に僧の眼のうすい藍色の光が顫えついていた。

「あのお坊さんは、どこから来たろう」と、壮い男が云った。

「どうせ乞食坊主じゃ、この山の上に、人里でもあると思うて来たろう」と、顎髯の男が面倒くさそうに云った。

僧の姿はもう緑樹の陰になった。人びとは頭を集めて中止か決行かに就いて相談をはじめた。

「お前たちが厭なら、俺は一人でもやる」と、顎髯の男が云いはった。

迷うていた者もその詞に力づけられて、毒流しを決行することになった。で、皆がすっ裸になって、皮粕の入れてある笊をはじめ、魚を入れる笊やしゃくい網を持って、谷におり、すぐそこの谷水が一坪ばかりの処に澱んで、小さな淵をしている処から皮粕を入れてみた。

人びとは眼を光らして水の上を見ていた。刻み煙草一服吸う位の時間を置いて、蒼白い五寸ばかりの魚が腹をかえして浮いて来た。