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パリのむすこへ
巴里のむす子へ
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《巴里のむす子へ(パリのむすこへ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,211 字 · 5 頁
巴里の北の停車場でおまえと訣れてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだか判らない。あまりに日夜思い続ける私とおまえとの間には最早や直通の心の橋が出来ていて、歳月も距離も殆ど影響しないように感ぜられる。私たち二人は望みの時、その橋の上で出会うことが出来る。おまえはいつでも二十の青年のむす子で、私はいつでも稚純な母。「だらしがないな、羽織の襟が曲ってるよ、おかあさん、」「生意気いうよ、こどもの癖に、」二人は微笑して眺め合う。永劫の時間と空間は、その橋の下の風のように幽かに音を立てて吹き過ぎる。
二人の想いは宗教の神秘性にまで昂められている。恐らく生を更え死を更えても変るまい。だが、ふとしたことから、私は現実のおまえに気付かせられることがある。すると無暗に現実のおまえに会い度くなる。巴里が東京でないのが腹立たしくなる。
それはどういうときだというと、おまえに肖た青年の後姿を見たとき、おまえの家へ残して行った稽古用品や着古した着物が取出されるとき。それから、思いがけなく、まるで違ったものからでもおまえを連想させられる。