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パリさい
巴里祭
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《巴里祭(パリさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 30,324 字 · 60 頁
それに時が爪をかけはじめたのだ。ざまをみるがいゝ。滑稽だ。残忍な粋人の感情だ。妻に侮辱と嘲笑とに価する特色を発見出来るようになって始めて惻々たる憐れみと愛とが蘇るというのだ。淋しくしみ/″\と妻を抱きしめる気持になれたのだ。何たる没情。何たる偏奇。新らしい陶器を買っても、それを壊して継目を合せて、そこに金のとめ鎹が百足の足のように並んで光らねば、その陶器が自分の所有になった気がしないといったあの猶太人の蒐集家サムエルと同じものを新吉は自分に発見して怖しくなった。あのとろんとして眼窩の中で釣がゆるんだらしく、いびつにぴょく/\動いている大きな凸眼、色素の薄くなった空色の瞳は黄ろい白眼に流れ散ってその上に幾条も糸蚯蚓のような血管が浮き出ている。あのサムエルの眼はやがて自分の眼であるに違いない。
部屋の中の家具に塗ってあるニスが濡れ色になって来て、銀色の金具は冷たく曇った。もうたそがれだ。新吉はいつもの生理的な不安な気持ちに襲われ胃嚢を圧えながら寝椅子から下りた。早くアッペリチーフを飲みたいものだ。八角テーブルの上に置いてある唇草の花が気になって新吉はその厚い花弁を指で挟んではテーブルの周囲を揃わない歩調でぶら/\歩いた。