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まぼろしのその

幻の園

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《幻の園(まぼろしのその)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,788 字 · 14 頁

青空文庫

狸が死んだと叫ぶと、死んだまねをするし、木から落ちたと叫ぶと、本当に落ちてしまうそうです。

私はみよ子と、よく狸ごっこをして遊びました。

住宅のすぐ横手に、土蔵が一つありました。旧藩時代には煙硝蔵だったのを、譲り受けて家にもって来たものだとのことでした。その入口の重い扉が開かれているような時、私はみよ子を誘って、その中で狸ごっこをしました。どんな風の日でも、その土蔵の中はしいんとしていて、高い小さな窓からさす明るみが朧ろで、ほんとに狸になったような気がするのでした。

二階には畳が敷いてあって、いろんな器物の箱が並んでいました。祖母はそこで器物の手入れなんかをしてることが度々ありました。

梨の白い花が散りかけた頃のことです。祖母が土蔵の二階に上って、いつまでも出て来ませんでした。私は何だか気になりました。というのは、その前日、見知らない男が二人やって来て、大きな鎧櫃一つと、刀を数本と、掛軸を幾つか、車につんで持っていったのでした。家の中がみんな不機嫌でした。そのことを思い出しましたので、祖母のことが気になって、見に行きました。

祖母はいろんな器具のとりちらかされた中に坐って、大きな杯をじっと眺めていました。