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げんじゅつてんまたろう

幻術天魔太郎

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《幻術天魔太郎(げんじゅつてんまたろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,616 字 · 90 頁

青空文庫

「では、みなさま、私は、母上、姉上のおそばにまいります。ごめんくださいまし」

この期にのぞんでも、中老出雲のお筆は、わるびれたいろもありません。しずかに手をさしのべて短刀をとると、右の肩から袷の袖をぬいで、純白の下着のたもとに、キリキリと抜身の短刀の柄のあたりを巻き、肌おしぬいだ覚悟の胸もとへ、

「あッ、待った」

雨戸が一枚、外からの体当りでパッとひらくと、つづいてつぶてが一つ、闇をきって、出雲のこぶしをハタとうちます。

「アッ」

短刀はポロリと落ちました。

「なんだ、なんだ」

たちさわぐ主人庄兵衛と七人の親類たち。そのまえへカッと紅蓮のほのおが渦をまくのです。

「アッ、火事」

おどろきあわてたのもむりはありません。どこから入ってきたか、地獄変相図にあるような大火焔車が一台、縁がわから座敷へはいるとみるや、六尺あまりの赤鬼、青鬼、鉄棒をつきならして飛びこみ、やおら主人庄兵衛のえりがみとってその火焔車にほうりあげ、座敷から座敷へ、縁がわから縁がわへと、ほのおをあげて走りまわるのです。

「ア、あッ、助けてくれッ」

主人庄兵衛は、巴になってもえさかるほのおの中に、必死に悲鳴をあげますが、七人の親類たちはじめ、店じゅうの番頭小僧、あまりのおそろしさにちかづく者もなく、ただ、あれよあれよとたちさわぐばかりです。