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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
線上閱讀堀 辰雄《幼年時代・晩夏(ようねんじだい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,965 字 · 169 頁
二
よほどそれは誰れの墓かと聞いてみようとしかけたが、何もいま聞くこともあるまいと思い返して、私はそのまま妻に目で合図をして、二人いっしょに母の墓のまえに歩みよって、ともどもに焼香した。
「これでいい……」私は何んとはつかずにそんなことを考えた。
二
私たちがひと先ず落ちついたさきは、信州の山んなかだった。
そこで十日ばかりが、なんということもなしに、過ぎた。何もかもこれから、――といったすっきりした気もちだった。
と、或あけがた、私たちはまだ寝ているうちに電報をうけとった。父の危篤を知らせて来たものだった。何んの前ぶれもなかったので、私たちは慌てて支度をし、そのまま山の家を鎖して、上京した。
正午ちかく向島のうちに着いてみると、そのあけがた脳溢血で倒れたきり、父はずっと昏睡したままで、私たちの帰ったのをも知らなかった。そういう昏睡状態はまだ二三日つづいていた。
そのあいだに、私たちはいろいろな人たちの見舞をうけた。父方の、四つ木や立石の親戚の人々もきた。私の小さい時からうちの弟子だったもの、下職だったものたちも入れかわり立ちかわり来た。それから母方の、田端のおばさんたちも来た。