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ようねんじだい
幼年時代・晩夏
堀 辰雄
線上閱讀堀 辰雄《幼年時代・晩夏(ようねんじだい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,965 字 · 169 頁
そのうちにだんだん一人で通学することにも慣れ、頭の禿げた、ちょぼ髭の先生にも自分が特別に目をかけられていることを知るようになった時分には、それまでどうかすると内気なために他の者から劣り勝ちだった学課の上にも、急に著しい進歩を見せ出した。大抵の学課では、他の生徒たちにあまり負けないようになった。どういうものか算術が一番得意で、読方、書方がそれに次ぎ、唱歌と手工だけは相変らず不得手だった。
これはやや後の話だが、私のあまり得意でない図画の時間に、その先生が皆にめいめいの好きな人物を描いてみろと云って描かせた絵の中で、私の描いた海軍士官の絵だけが、ながいこと教室に張り出されていた事さえある。その絵が決して上手ではないこと、――ことに私が丹念に描き過ぎた立派な口髭のために、反って変てこな顔になってしまっていることは、私自身も知っていた。しかし、その先生にはその絵がひどく気に入っていたらしかった。それは私がその海軍士官の腕に、私以外には誰もそれを思いつかなかった、黒い喪章をちょっと添えただけの事のためらしかった。(それは明治大帝がおかくれになってから間もない事だったからである。