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いくどめかのさいご

幾度目かの最期

久坂 葉子

線上閱讀久坂 葉子《幾度目かの最期(いくどめかのさいご)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 59,103 字 · 121 頁

青空文庫

いや、恋とは云えないかも知れない。愛とも云えまい。だが、ゆめのようにあわい、うすいものではなく、それは今迄に例のない程、激しくかなり強いことは確かであった。

人影はたいてい背広をきこんでいる。紺色のごく当り前の型に、やはり黒っぽい目立たぬネクタイをしており、黒鞄をさげている。会社員だろうか、だがあの世たけた俗っぽさがない。といって学者のようでもない。全く隙がなく、その人影はいつも判を押したように同じ態度であり冷たく硬かった。年は幾つだろうか、未婚者だろうか、若さがあるようで、そのくせ冷たさには落着きと威厳がある。

誰ともわからぬままに二カ月たった。そして六月のある日、私はその人影の実体をとうとう知ることが出来たのである。というのは、私はうるしにかぶれ、顔中はれ上り高熱が急に出た時だった。早速、いつもお世話になっている病院に電話をして昵懇のN先生に来てもらうように母に頼んだのだった。ところがN先生、今日は何か大きな手術があるとかで伺えないから代りに人をやりますとのことだった。私は額に水でしぼったタオルを殆ど一分おきにかえて、医師を心待ちに待っていたわけだ。