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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《怒りの虫(いかりのむし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 頁
「年をへし、糸の乱れの苦しさに、衣のソデはほころびにけり……。」
聞いてた人々は唖然とした。擦り切れた袖口についての現実的な憤慨から、いきなり、古い戦記物語の和歌に入り込んだのである。二つ三つ、拍手が起った。それをきっかけに席を立つ者もあった。
崎田夫人も立ち上った。
「酔っ払いは、もう相手にしないことにきめました。」
「ええどうぞ。」
木山はなにか嬉しそうな笑顔をして、また酒杯を取り上げた。毛の薄くなってる顱頂部に汗がにじんで、それをハンケチでくるくる拭いた。それから黙りこんで、彼は雑談の圏外に出た。
林が彼のところへ立って来て、肩を叩いた。
「ちょっと頼みたいことがあるんだがね。君は東京の新聞社にも知人が多いだろうから、少し力をかしてくれよ。小坂澄子、新進ピアニストだが、来週、晴れの音楽会に出ることになってる。あれが、僕の姪に当るものだから……。」
「あ、切符か、何枚でも引き受けるよ。」
「いや、切符のことじゃないんだ。なにしろ、初めての晴れの音楽会に出ることだから、好評を得さしてやりたいんだ。どの新聞社でもいいから、音楽批評を担当してる記者に、君から、その、適当に口を利いといてくれないかね。