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きょうふのまぼろしへいだんいん

恐怖の幻兵団員

大倉 燁子

線上閱讀大倉 燁子《恐怖の幻兵団員(きょうふのまぼろしへいだんいん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 頁

青空文庫

「さあ、こちらへいらっしゃい」

とすすめた。

「まだ。おやすみになっていらしたんでしょう? 申わけありません」

家政婦が云った通り、全く素晴らしく美しい。たしか二十九歳だと聞いていたが、見たところはせいぜい二十二三、眼の覚めるような赤色ボックス型オーヴァを着ていた。彼女は松岡旧伯爵の世嗣一雄夫人で、類稀れな美貌の持主として有名であった。

没落階級に属する旧伯爵が、いまもなお昔ながらに依然として政界の影武者であり、相当の勢力を有するのは世間で知らぬ者もないが、彼はいつも黒幕であって、絶対に表面に立たない、それが彼を救ってくれたと云ってもよかった。

口の悪い人は、狸爺だの、剣劇の名人だのと云った。それはずるくって、立ち廻わりが上手だという意味であるが、たしかに云われるだけのことはあった。あの巨万の富も財産税だ、取得税だといって大部分を失っているはずだのに、なお昔のままの生活をつづけていられるということは、智慧者の彼なればこそ、と、私は思っているのだった。

家政婦が火種を持って来て、瀬戸の大火鉢に炭をついでから、各自の前にお茶を運んでいるのを、夫人はいらいらしながら見ていたが、彼女の退くのを待って、急に一膝乗り出し、