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きょうふじょう

恐怖城 他5編

佐左木 俊郎

線上閱讀佐左木 俊郎《恐怖城 他5編(きょうふじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 143,735 字 · 290 頁

青空文庫

するとまた、戸口のほうで金属の触れ合うような音が始まった。

紀久子は全身の神経を緊張させた。しかし、音はすぐ消えてふたたび、冴えざえしい静寂のうちに返っていった。紀久子は恐怖性錯覚を起こしやすくなっている自分の神経のことを思いながら、その半面では、だれかわたしを連れにきたのではないかしら? と思いながら、無理にも神経を鎮めようとした。

金属の触れ合うようながつがつという音がまた続いた。夜寒の冴えざえしい空気の中に――隅々までも針の先で突くようにして――しばらく続いた。

紀久子はまた目を開いた。薄暗い電灯、朦朧としている何かの影、父親のベッド、何物をも圧している自分の心臓の動悸を打つ音、とたんに入口のドアが静かに開いて、影が現れた。

紀久子は無我夢中に、ぱっと薄暗い光の中に起き上がった。彼女の心臓は破れるほど激しく動悸を打ちだした。彼女は叫ぼうとして声が出なかった。叫ぼうとする身構えをもって、彼女はただわなわなと全身を顫わしていた。

黒い姿は静かに部屋の中へ進んできた。静かに――抜き足差し足で――煙か何かのように――ベッドのほうへ近づいた。紀久子は叫ぼうとする身構えで目を瞠り、唇を極度に顫わせながらじっとその黒い姿を見詰めていた。