輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

おんしゅうのかなたに

恩讐の彼方に

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《恩讐の彼方に(おんしゅうのかなたに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,824 字 · 46 頁

青空文庫

自分が、命を賭してまで得た女が、わずか五両か十両の瑁のために、女性の優しさのすべてを捨てて、死骸に付く狼のように、殺された女の死骸を慕うて駆けて行くのを見ると、市九郎は、もうこの罪悪の棲家に、この女と一緒に一刻もいたたまれなくなった。そう考え出すと、自分の今までに犯した悪事がいちいち蘇って自分の心を食い割いた。絞め殺した女の瞳や、血みどろになった繭商人の呻き声や、一太刀浴せかけた白髪の老人の悲鳴などが、一団になって市九郎の良心を襲うてきた。彼は、一刻も早く自分の過去から逃れたかった。彼は、自分自身からさえも、逃れたかった。まして自分のすべての罪悪の萌芽であった女から、極力逃れたかった。彼は、決然として立ち上った。彼は、二、三枚の衣類を風呂敷に包んだ。さっきの男から盗った胴巻を、当座の路用として懐ろに入れたままで、支度も整えずに、戸外に飛び出した。が、十間ばかり走り出した時、ふと自分の持っている金も、衣類も、ことごとく盗んだものであるのに気がつくと、跳ね返されたように立ち戻って、自分の家の上り框へ、衣類と金とを、力一杯投げつけた。

彼は、お弓に会わないように、道でない道を木曾川に添うて一散に走った。