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あくじゅうへん
悪獣篇
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《悪獣篇(あくじゅうへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,715 字 · 73 頁
」
されば叔母上の宣うごとし。年紀七十あまりの、髪の真白な、顔の扁い、年紀の割に皺の少い、色の黄な、耳の遠い、身体の臭う、骨の軟かそうな、挙動のくなくなした、なおその言に従えば、金色に目の光る嫗とより、銑太郎は他に答うる術を知らなかった。
ただその、早附木一つ買い取るのに、半時ばかり経った仔細が知れて、疑はさらりとなくなったばかりであるから、気の毒らしい、と自分で思うほど一向な暢気。
「早附木は? 叔母さん。」と魅せられたものの背中を一つ、トンと打つようなのを唐突に言った。
「ああ、そうでした。」
と心着くと、これを嫗に握られた、買物を持った右の手は、まだ左の袂の下に包んだままで、撫肩の裄をなぞえに、浴衣の筋も水に濡れたかと、ひたひたとしおれて、片袖しるく、悚然としたのがそのままである。大事なことを見るがごとく、密とはずすと、銑太郎も覗くように目を注いだ。
「おや!」
「…………」
六
黒の唐繻子と、薄鼠に納戸がかった絹ちぢみに宝づくしの絞の入った、腹合せの帯を漏れた、水紅色の扱帯にのせて、美しき手は芙蓉の花片、風もさそわず無事であったが、キラリと輝いた指環の他に、早附木らしいものの形も無い。