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あくじゅうへん
悪獣篇
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《悪獣篇(あくじゅうへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 36,715 字 · 73 頁
「ああ、」とばかり、あらためて、その(松や、)を言おうとすると、溜息になってしまう。蚊帳が煽るか、衾が揺れるか、畳が動くか、胸が躍るか。膝を組み緊めて、肩を抱いても、びくびくと身内が震えて、乱れた褄もはらはらと靡く。
引掴んでまで、撫でつけた、鬢の毛が、煩くも頬へかかって、その都度脈を打って血や通う、と次第に烈しくなるにつれ、上へ釣られそうな、夢の針、汀の嫗。
今にも宙へ、足が枕を離れやせん。この屋根の上に蘆が生えて、台所の煙出しが、水面へあらわれると、芥溜のごみが淀んで、泡立つ中へ、この黒髪が倒に、髻から搦まっていようも知れぬ。あれ、そういえば、軒を渡る浜風が、さらさら水の流るる響。
恍惚と気が遠い天井へ、ずしりという沈んだ物音。
船がそこったか、その船には銑太郎と自分が乗って……
今、舷へ髪の毛が。
「あッ、」と声立てて、浦子は思わず枕許へすッくと立ったが、あわれこれなりに嫗の針で、天井を抜けて釣上げられよう、とあるにもあられず、ばたり膝を支くと、胸を反らして、抜け出る状に、裳を外。
蚊帳が顔へ搦んだのが、芬と鼻をついた水の香。引き息で、がぶりと一口、溺るるかと飲んだ思い、これやがて気つけになりぬ。