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せきべつ

惜別

太宰 治

線上閱讀太宰 治《惜別(せきべつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 91,984 字 · 178 頁

青空文庫

私の知っている仙台時代の周さんは、近代文明を病んで苦しみ、その病床を求めて、教会の扉さえ叩いたのだ。しかし、そこにも救済は無かった。れいの身振りに辟易したのだ。懊悩の果には、あの気品の高い正直な青年が、奴隷の微笑をさえ頬に浮べるようになったのだ。混沌の特産物である自己嫌悪。彼はこの文明的感情に於いて、たしかに支那のいたましい先駆者のひとりであったと言えるのではあるまいか。そうしてこの苦しい内省の地獄が、いよいよ、人の百感の絵図ともいうべき文芸に接近させたのではあるまいか。もとより「好きな道」である。困憊の彼はこの病床に這い上り、少しく安堵を覚えたのではあるまいか。もとより之は、私の俗な独断である。ひとの心裡の説明は、その御当人にさえうまく出来ないものらしいし、まして私のような鈍才無学の者には、他人の気持など、わかりっこないのであるが、しかし、巷説の魯迅の転機は、私にはどうしても少し腑に落ちないところがあるので、敢えて苦手の理窟を大骨折りで述べて見た次第である。

その大雪の夜から、ひとつきほど経って、たしかあれは明治三十九年のお正月頃の事だったように思う。