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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《我が家の楽園(わがやのらくえん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 頁

青空文庫

祖父は敗戦に昂奮して、なぜか自分は戦犯になるものと固く思いこんでいた。疎開をすすめても応じなかったのは、頑固な自負心によることだったが、門から玄関まで敷いた上り道の白砂には、空襲のあるような日でも、いつもキチンと箒目がついていた。いつ迎いに来てもおどろかないという、見識のあるところを見せたわけで、さすが石田はちがったものだ、などといわれて、いい気持になっていたふうだった。

十二月二日に、N宮はじめ各界の名士五十九名に逮捕命令が下ったが、そのなかに、当然あるべき石田という名がないので、祖父は、むやみに腹をたて、逃げようにも行先がなく、やむをえず居残りになっていた家扶や家令に、さんざんにあたりちらしたそうである。

それから三日ほどした朝、執事の田村が居間へ走りこんできて、

「入りまして、よろしゅうございますか」

と会釈する間ももどかしそうに、

「ただいま、表玄関へ、ジープが」

といった。祖父はジロリと田村のほうへ振り返ると、

「いっそ、お待ちかねだ。紋服を出せ。袴はいらんぞ」

と外出の支度をいいつけた。

そこへ、家扶の大井が、背の高いひとを案内してきた。