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おしかけにょうぼう

押しかけ女房

伊藤 永之介

線上閱讀伊藤 永之介《押しかけ女房(おしかけにょうぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,073 字 · 22 頁

青空文庫

「いやだ」

初めて初世は立ちどまつて、上半身を反らせた。しかし、それは抵抗というほどのしぐさではなかつた。

「いいよ、何でもないよ、一寸話したいんだ」

そのまま手を引くと、それ以上さからおうとせず尾いて来た。

もう佐太郎は夢中であつた。興奮でボーツと眼先がかすんで、林檎の梢に鋭鎌のような三日月がかかつているのさえ、ろくに眼に入らなかつた。

枝もたわわな林檎はたいてい袋をかぶつていたが、そうでないのは夜露にぬれてつや/\と光つていた。

どこか近くで夜鳥がギヤツと一声鳴いた。

「学校でいちばん好きな生徒であつたよ」

そう言いながら、佐太郎は女の手をひいて一本の林檎の木の根がたに棄ててある林檎箱に腰かけさせた。

つづいて自分も腰をおろしたとき、箱がメリ/\とつぶれて、佐太郎はうしろにひつくり返りそうになつた。転ぶのを踏みこたえようとしたとき、やはり同様によろめいていた女に、思わず抱きついていた。

直きに佐太郎は女に最後のあるものを求めていた。

だが、あんなにそれまで従順だつた初世が、ハツキリとそれを拒んだ。そうなると、このごろ田圃に下りてなか/\の働き者という評判の初世は、相当に手強くて、佐太郎がよほど乱暴をはたらかないかぎりは、どうにもなりそうでなかつた。