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せっぷんをぬすむおんなのはなし
接吻を盗む女の話
佐左木 俊郎
線上閱讀佐左木 俊郎《接吻を盗む女の話(せっぷんをぬすむおんなのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,474 字 · 10 頁
「厭なの? も媚にならなくちゃ、ね。」
こう一人の青年は言っていた。
「もともとこの芝居は『媚を売る街』というので、媚を売らなければ生活の出来ない女性という感じが来なければ、このプロレタリア劇は失敗なのだからね。いいかね、君は、昨夜は大へんうまかったが、今夜は、それを言うのに、なんか少しおどおどしているよ。」
三枝子は、もうどうしていいかわからなかった。併し、静枝の帰るのをそこで待っていようと思った。
「君も、これで生活をして行こうと思うんなら、身を入れてやって下さい。」
こう言われて、静枝は涙含んでいるようだった。誰も楽ではないのだ! 社に居残って仕事をするのと同じように、こうして幾晩も稽古をしては舞台に出るのだ! そしてもらった報酬で社からもらった給料を補って来ているのだ! と三枝子は、苦しい気持ちで窓の中を見続けた。
「じゃ、もう一度やって見て下さい。」
静枝はそこへ坐った。
「おい! 三枝さんかい? 何を見ているんだい?」
振り返って見ると、そこに、疲れ切った彼女の夫が立っていた。声を立てられない立場から、三枝子は固く夫の手を握った。
――昭和四年(一九二九年)『婦人サロン』