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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
線上閱讀甲賀 三郎《支倉事件(はせくらじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 頁
彼女はきっぱり云ったが、何となくオド/\していた。
「君」
渡辺は石子の方を振向いた。
「兎に角荷物を見せて貰おうじゃないか」
石子はさっきから渡辺が少しやり過ぎると思っていた。性質から来るのか、石子の遣方は渡辺とは違う所があった。然しこうなっては騎虎の勢い、渡辺に従って座敷に踏み込むより仕方がなかった。奥さんも別に二人の上るのを拒みもしなかった。
支倉から来た荷物は玄関脇の四畳半に積み重ねてあった。どの部屋もきちんと整頓されていた。二人は何物をも見逃すまいと、鋭い眼で隅々までも睨め廻したが、支倉の姿は無論、彼の潜伏していたらしい形跡もなかった。
「うむ、根岸の云った事が本当だったかな」
石子はもし支倉がいたら、
「どうだい、君みたいな生温い事では駄目だぜ」
と得意になって云うだろう所の、情気切っている渡辺の耳許で囁いた。
石子、渡辺の両刑事が飯倉の高山の家に乗込んでいる時分、三光町の支倉の家では細君の静子が力なげに外出の支度をしていた。
彼女は白金学院の女学部を出て更に神学科を修めて、二十七と云う若い女ながらも自宅に日曜学校を開いて、教鞭を取っていたので、支倉が神学徒の仲間に知られるようになったのも過半は彼女の為だったのだ。