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にいづまのしゅき

新妻の手記

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《新妻の手記(にいづまのしゅき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,807 字 · 22 頁

青空文庫

結婚してから、三ヶ月は夢のように過ぎた。そして漸く私は、この家庭の中での自分の地位がぼんやり分ってきた。

家庭といっても、姑と夫と私との三人きり。姑はもう五十歳ほどだが、主人の死後、長年のあいだ一人で家事を切り廻してきたひとで、気力も体力もしっかりしている。夫は会社員である。さして生活に不自由しない程度の資産があり、都の西郊にある家は、こじんまりしているが庭が広く、裏には竹籔と杉の木立がある。私は三田の叔父さまの世話でここに嫁いできた。もとより、見合い結婚で、恋愛なんかではない。女学校の先生を少ししていたのをやめて、荷物と一緒にこちらへ来てしまった。家庭生活についての希望とか抱負とかも、大して持ち合せてはいなかった。――そして今、はっと何かに突き当った感じである。

姑、というのもへんだし、義母、というのもへんだから、単に母と呼ぶことにするが、母は、私にたいへんやさしく親切だった。私が来るまで、親戚の娘さんが、家事の手伝いみたいな恰好で寄宿していたが、私達夫婦が新婚旅行から帰ってくると、入れちがいに実家へ帰って行った。私が気兼ねするだろうと、そういう処置をしてくれたのも母の配慮によることらしい。