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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

線上閱讀林 芙美子《新版 放浪記(しんぱん ほうろうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 頁

青空文庫

「まだかね?」

時々、お母さんへ声をかけてやる。人間がしゃがんでいるかっこうというものは、天子様でも淋しいかっこうなんだろう。皇后さまもあんな風におしゃがみなのかねえ。金の箸で挾んで、羽二重の布に包んで、綺麗な水へぽちゃりとやるのかもしれない。

俺とお前は枯れすすき、花の咲かない枯れすすき……。大きい声で唄う。全く惚々するような声なり。おいたわしやのこの人なき真昼。窒息しそうだなぞと云っても、こんなに沢山空気があっては陽気にならざるを得ない。只、空気だけが運命のおめぐみだ。

絶世の美人に生んでくれないのがあなたの失策さ……。何処にでもあるような女なんか、世の中はみむいてもくれないのさ。

「ああ、やっと出た」

「沢山かね?」

「沢山出たぞ」

お母さんは立ちあがって、ゆっくり裾をおろした。

「えらい見晴しがいいのう」

「こんなところへ、小舎をたてて住んだらいいね」

「うん。夜は淋しいぞ……」

用を達して気持ちがいいのか、母は私の横へ来て、セルロイドの歯のかけた櫛で髪をときつける。

大宮の町へ行って銭湯にはいりたくなった。下駄をぬぐと、鼻緒のところをのこして、象の足のように汚れた足。