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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
線上閱讀松濤 明《新編 風雪のビヴァーク(いちのくらさわなんりょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,081 字 · 51 頁
ただ山のかなたの目に見えぬもの、それだけに引きずられて遅々たる行進をつづけた。幸い入山の第一日にしてはコンディションが良いので、路がバス路から離れて里路に入る頃には、どうやら気分も和らいで、四囲の空気とも融和するようになった。総じて伊那の里は明るいが、その中でもこのあたりはとくに明るい。ただ白と緑とコバルトの三つの色で表現しつくされる。地の利のよいせいか、奥まったところにありながら開けており、片田舎の町外れとでもいった感じである。
小川路峠の路のある低い脊梁が、綺麗な青空を背にして次第に近づいてくる。そのところどころ真白くガレた、青い樹木をふんだんにつけた脊梁は、子供の時代好んで駆け廻った中国地方の低山とよく似ていて、親しいものに巡り会ったような懐かしさを覚えた。下平を過ぎ、越久保に着くと、殺風景な自動車路もようやく終っていよいよ峠の山道が始まり、いくぶん新鮮な気分に戻ることができた。初めのうちは霜どけのひどい泥濘で、新しい靴もたちまち泥だんごになって煩わしかったが、登るにしたがって歩き易くなった。地図に書いてあるぼろぼろの観音堂をすぎると、もう初冬の世界である。