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しんしゃくしょこくばなし

新釈諸国噺

太宰 治

線上閱讀太宰 治《新釈諸国噺(しんしゃくしょこくばなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 93,562 字 · 179 頁

青空文庫

ゆるせ金内、来世は武士に生れぬ事じゃのう。」顔をそむけて立ち上り、「留守は心配ないぞ。」と強く言って広間から退出した。

金内の私宅には、八重ということし十六になる色白く目鼻立ち鮮やかな大柄な娘と、鞠という小柄で怜悧な二十一歳の召使いと二人住んでいるだけで、金内の妻は、その六年前にすでに病歿していた。金内はその日努めて晴れやかな顔をして私宅へ帰り、父はまたすぐ旅に出かける、こんどの旅は少し永いかも知れぬから留守に気を附けよ、とだけ言って、貯えの金子ほとんど全部をふところにねじ込み、逃げるようにして家を出た。

「お父さまは、へんね。」と八重は、父を送り出してから、鞠に言った。

「さようでございます。」鞠は落ちついて同意した、金内は、ひとをあざむく事は、下手である。いくら陽気に笑ってみせても、だめなのである。十六の娘にも、また召使いにも、看破されている。

「お金を、たくさん持って出たじゃないの。」お金の事まで看破されている。

鞠は、うなずいて、

「容易ならぬ事と存じます。」と、分別顔をして呟いた。

「胸騒ぎがする。」と言って、八重は両袖で胸を覆った。

「どのような事が起るかわかりませぬ。