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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本の怪談(ぎじんのすがた)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 頁
舟は何時の間にか東の岸へ着いていた。常七は気がつくと舟を飛びおりて渡船(わたし)小屋へ駈け込んだ。
親実はじめ八人の死は、非常に人の同情を惹いた。それと共に親実の小高坂(こだかさ)の邸や木塚村の墓所には、怪しい火が燃えたり、弾丸のような火の玉が飛んで、それに当った人は即死する者もあれば、病気になる者もあった。これは八人の怨霊であると云いだした。八人御先、この恐ろしい八人の怨霊の噂は、大高坂を中心にして昂まって来た。仁淀川の渡守の見た奇怪も聞えて来た。
その時分であった。久武内蔵助の邸では、五つか六つになった末の男の子が、庭へ出て、乳母や婢(じょちゅう)に囃(はや)されて遊んでいた。小供は乳母の傍からちょこちょこと離れて、庭前(にわさき)の松の木の根元のほうへ往った。其処には小供の気に入りの小さな犬が、沙(すな)の上へ白い腹をかえして寝ていた。
「わんわん」
小供は犬の真似をしていた。松の傍から五十余りの髪の白い女が出て来た。乳母はその女に眼を留めてこの庭前に何しに来た人であろうかと不審した。
「※(きれい)な若様じゃ」
老女はこう云って男の子に近づいて、隻手(かたて)をその肩にやった。