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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁

青空文庫

そうかと思えば、東北の果から遠く朝鮮の方まで旅を続けて、内地の温泉めぐり位は物の数とも思わないような家族もある。山本さんの心配は、お新の快活な、心(しん)から出るような笑で破れた。彼女は例の薄い鼠色のコオトに、同じような色の洋傘(こうもり)を持って、待合室から改札口の方へ山本さんと一緒に歩いた。

「兄さん、シツコクしちゃ嫌(いや)ですよ――そのかわり、何処へでも御供しますから――」

と彼女の眼が言うように見えた。

どこまでもお新は活々としている。細長いプラットフォムを歩いて行くにしても、それから国府津(こうず)行の二等室の内へ自分等の席を取るにしても、どこかこう軽々とした、わざとらしくなく敏捷(びんしょう)なところが有った。

彼女はこれまで、旅行好な舅(しゅうと)や夫に随(つ)いて、大抵他(ひと)の遊びに行くような場所へは行っていた。内地にある温泉地、海水浴場のさまなぞも、多く暗記(そらん)じていた。国府津小田原あたりは、めずらしくも無かった。好い連さえあれば、すこし遠く行く位は何でもなく思っている。

旅するものに取ってはこの上もない好い日和(ひより)だった。