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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

線上閱讀島崎 藤村《旧主人・芽生(きゅうしゅじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 頁

青空文庫

「鞠ちゃん、吾家へ行こう」

と慰撫めるように言いながら、高瀬は子供を連れて入口の庭へ入った。そこには畠をする鍬などが隅の方に置いてある。お島は上り框のところに腰掛けて、二番目の女の児に乳を呑ませていた。

「鞠ちゃんは、先刻姉や(下婢)と一緒に懐古園へ遊びに行って来ました」

とお島は夫に話して、復た乳呑児の顔を眺めた。その児は乳房を押えて飲むほどに成人していた。

「俺にもおくれやれ」と鞠子は母が口をモガモガさせるのに目をつけた。

「オンになんて言っちゃ不可の。ね。私に頂戴ッて」

お島はなぐさみに鯣を噛んでいた。乳呑児の乳を放させ、姉娘に言って聞かせて、炉辺の戸棚の方へ立って行った。

「さあ、パン上げるから、お出」と彼女は娘を呼んだ。

「ううん、鞠ちゃんパンいや――鯣」

と鞠子は首を振ったが、間もなく母の傍へ行って、親子でパンを食った。

「鞠ちゃんにくれるくれるッて言って、皆な母ちゃんが食って了う」と鞠子は甘えた。

この光景を笑って眺めていた高瀬は自分の方へ来た鞠子に言った。

「これ、悪戯しちゃ不可よ」

「馬鹿、やい」と鞠子はあべこべに父を嘲った。――これが極く尋常なような調子で。