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むかしのかじ

昔の火事

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《昔の火事(むかしのかじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,494 字 · 21 頁

青空文庫

こちとらは、タオルがスフになったばっかりでもうだつがあがらないが、この頃儲けている奴は、まったく思いもかけないようなところで儲けてるんだねえ。理髪屋の親方の碌三がそう云い出した。中学校や女学校の試験が新考査法になって、いっとう儲けたのは誰だと思うね。頭をいじられている猛之介は、白い布をぐるりとかぶせられて目をつぶりながら、曖昧にゆるい入れ歯をかみ直して、ふうむと云った。いっとう儲けたなア歯医者だそうだぜ。齲歯一本について一点ずつひくんだそうだ。だもん、どこの親でも躍起となるね。何かでチョイチョイと埋めてさえありゃ引かないんだそうだから、歯医者は繁昌して、夜まで子供で一杯だったとさ。大分儲けたそうな話だ。これから毎年となりゃ、一身上は忽ちだ。胡麻塩の頸筋のところを苅られている窮屈そうな声で猛之介は、まあ、それもよかろうさとゆっくり云った。日本人の歯がみんな丈夫になっていいかもしんねえ。それから大分間をおいて、猛之介は、いかにもこの日ごろ考えているらしい口調でこう云った。だがまア、金なんというもなあ、儲けさしてくれるんか分んねえようなところもあるもんだ。