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ほしじょろう
星女郎
泉 鏡花
線上閱讀泉 鏡花《星女郎(ほしじょろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,344 字 · 104 頁
蝶も牛の背を越したかな……左の胴腹に、ひらひらひら。
「はは、はは。」
独りで笑出した。
「まず昼間で可かった。夜中にこれを見せられると、申分なく目をまわす。」
三
これより前、境はふと、ものの頭を葉越に見た時、形から、名から、牛の首……と胸に浮ぶと、この栗殻とは方角の反対な、加賀と越前の国境に、同じ名の牛首がある――その山も二三度越えたが、土地に古代の俤あり。麓の里に、錣頭巾を取って被き、薙刀小脇に掻込んだ、面には丹を塗り、眼は黄金、髯白銀の、六尺有余の大彫像、熊坂長範を安置して、観音扉を八文字に、格子も嵌めぬ祠がある。ために字を熊坂とて、俗に長範の産地と称える、巨盗の出処は面白い。祠は立場に遠いから、路端の清水の奥に、蒼く蔭り、朱に輝く、活けるがごとき大盗賊の風采を、車の上からがたがたと、横に視めて通った事こそ。われ御曹子ならねども、この夏休みには牛首を徒歩して、菅笠を敷いて対面しょう、とも考えたが、ああ、しばらく、この栗殻の峠には、謂われぬ可懐い思出があったので、越中境へ足を向けた。――
処を、牛の首に出会ったために、むしろその方が興味があったかも知れないと、そぞろに心の迷った端を、隠身寂滅、地獄が消えた牛妖に、少なからず驚かされた。