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はるのとうぞく

春の盗賊

太宰 治

線上閱讀太宰 治《春の盗賊(はるのとうぞく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 頁

青空文庫

読者にも、おぼえが無いか。私は自身の思わぬ手柄に、たしかに逆上せてしまったのである。

「さ、手を離してあげる。いま、雨戸をあけてあげますからね。」いったい、どんな気で、そんな変調子のことを言い出したものか、あとでいくら考えてみても、その理由は、判明しなかった。私は、そのときは、自分自身を落ちついている、と思っていた。確乎たる自信が、あって、もっともらしい顔をして、おごそかな声で、そう言ったつもりなのであるが、いま考えてみると、どうしても普通でない。謂わば、泰然と腰を抜かしている類かも知れなかった。

雨戸をあけ、

「さ、はいりたまえ。」いよいよ、いけなかった。たしかに私は、あの、悠然と顛倒していた組に、ちがいなかった。江戸の小咄にも、あるではないか。富籤が当って、一家狂喜している様を、あるじ、あさましがり、何ほどのこともないさ、たかが千両、どれ銭湯へでも行って、のんびりして来ようか、と言い澄まして、銭湯の、湯槽にひたって、ふと気がつくと、足袋をはいていた。まさしく、私もその類であった。ほんとうに、それにちがいなかった。いい気になって、どろぼうを、自分からすすめて家にいれてしまった。