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きのう・きょう・あす

昨日・今日・明日

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《昨日・今日・明日(きのう・きょう・あす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 頁

青空文庫

そう言われると、二人は、

「自分たちもそう思います」

と、うっかり(というより寧ろ本心から)そう答えてしまい、これでは手ぶらで帰るより仕方がなかった。

しかし、聴けば、たった一軒、兵隊さんになら、どんなことでも喜んできくという「兵隊きちがい」の松尾という家があるという。

二人は早速いそいそと松尾家を訪問した。ところが、

「鶏ですか。惜しいことをしましたよ。あればお安いことなんですが、うちに一羽残っていた奴を今さきつぶしてしまった所なんですよ。一足違いでしたよ」

という返事である。

しょんぼりと松尾家の玄関を出ると、

「どうせ、こんなことだろうと思った」

と、白崎は赤井の顔を見ながら、苦笑した。白崎はかねがね、

「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がはいるのだ」

と、言っており、何か自分の運命というものに諦めをつけていたのである。

やがて二人はとぼとぼ帰って行った。暮れにくい夏の日もいつか暮れて行き、落日の最後の明りが西の空に沈んでしまうと、夜がするすると落ちて来た。

急いで帰らねば、外出時間が切れてしまう。しかし、このまま手ぶらで帰れば、咽から手の出るほどスキ焼きを待ちこがれている隊長の手が、狂暴に動き出して、半殺しの目に会わされるだろうことは地球が、まるい事実よりも明らかである。