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じだいとひとびと

時代と人々

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《時代と人々(じだいとひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,256 字 · 17 頁

青空文庫

将来についても現実的に白紙の気持を抱かれたと思う。

それはまことに尤もなのだし、本人として外側から及ぼすどんな力も願ってはいなかったのだけれども、それでも先生の聰明な如才なさのうちに閃くように自身の未来を空白として感じとることは苦しかった。もしそれでいいのなら、こんなにきはしないのに。そう思えた。私は何とかして、一個の人間がそこに生きたという事実を自分としてうけがえる生活を、うち立てたかったのであった。

近代日本文学の黎明とともに生い立ったような先生といて、私の側から感興のつきない話題がありよう筈もなかった。当時老博士はシェークスピア全集の翻訳に専念して居られた。したがって程よい時間が経つと、自然私がもうお暇しなくてはいけないのだな、とさとるような雰囲気が生み出されたのも肯けるが、そのときの私としては、そういう一通り整った儀礼のこちら側では何としても表現も出来ずうち破ることも出来ない何ものかが心にのたうっていた。それにもかかわらず、一定の時がたつと、季節のちがった気流がどこからか流れ込んで来るように、私の帰るべきことが知らされて、そして若い不器用な私は帰って来るのであった。