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ぎゃっこう

晩年

太宰 治

線上閱讀太宰 治《晩年(ぎゃっこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,459 字 · 91 頁

青空文庫

これは、むかし、さるお大名のお庭であった。池には鯉と緋鯉とすっぽんがいる。五六年まえまでには、ひとつがいの鶴が遊んでいた。いまでも、この草むらには蛇がいる。雁や野鴨の渡り鳥も、この池でその羽を休める。庭園は、ほんとうは二百坪にも足りないひろさなのであるが、見たところ千坪ほどのひろさなのだ。すぐれた造園術のしかけである。われは池畔の熊笹のうえに腰をおろし、背を樫の古木の根株にもたせ、両脚をながながと前方になげだした。小径をへだてて大小凸凹の岩がならび、そのかげからひろびろと池がひろがっている。曇天の下の池の面は白く光り、小波の皺をくすぐったげに畳んでいた。右足を左足のうえに軽くのせてから、われは呟く。

――われは盗賊。

まえの小径を大学生たちが一列に並んで通る。ひきもきらず、ぞろぞろと流れるように通るのである。いずれは、ふるさとの自慢の子。えらばれた秀才たち。ノオトのおなじ文章を読み、それをみんなみんなの大学生が、一律に暗記しようと努めていた。われは、ポケットから煙草を取りだし、一本、口にくわえた。マッチがないのである。

――火を借して呉れ。

ひとりの美男の大学生をえらんで声をかけてやった。