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くらがりのおとまつ

暗がりの乙松

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《暗がりの乙松(くらがりのおとまつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,992 字 · 25 頁

青空文庫

四

四

「ど、どうなさるんで」

「急ぐにゃ及ばねえ、まあ落着け」

梅田屋は胴巻を納めて、「盗人をする娯みはなあ三次、仕事をした後味をじっくり噛締めるところにあるんだぜ」

「何だか、あっしにゃ合点がいかねえ」

「空巣をくすねてそのままずらかるなんざあ、田舎出来の小泥棒でもするこった。盗んだ後で家のやつらがどんな慌てかたあするか、そいつをこう悠くり眺めてる気持が分らなけりゃ、本当の商売人たあ云われねえ」

三次は気圧されて黙った。

「見ねえ、帰って来たのは娘だ……」

梅田屋は顎をしゃくった。

丘の斜面を娘が一人、家が気になるようすで小走りに下りて来る、やがて土間から入ったと思うと、間もなく部屋の障子へぽーっと行燈の灯がさしてきた。

「お前大名屋敷へ入ったことがあるか」

梅田屋が低い声で訊いた。

「とんでもねえ、まだそんな……」

「ふっふ。まあ聞きねえ、何と云っても後味の良いなあ大名屋敷だ、ふだん偉そうに四角張ってる侍どもが、時化を喰った鰯みてえに眼の色を変えて、刀あ捻くりながら駈回るざまあ――まったく堪らねえ茶番だぜ」

「よっぽどおやんなすったでしょうね」

「それほどでもねえがの、盗人をするんなら大名か大所の金持だ、日頃のさばってる連中が蒼くなって騒ぐところを、こうじっと見ている気持ゃあ……おや」