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きょくていばきん
曲亭馬琴
邦枝 完二
線上閱讀邦枝 完二《曲亭馬琴(きょくていばきん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,788 字 · 24 頁
「兄さん」
固く手を握りしめた弟の眼には、熱い涙が溢れていた。同時に京伝の胸にも、深く迫る何物かが感じられた。
いま筆硯をふところに飛出して行った弟の身の上に、十七年の歳月は夢と過ぎたが、しかも夢というには、余りに切実な思い出ではなかったか。
「あいつの心に、おれの半分でも、あの時のことが蘇ってくれたら。……」
京伝は、ひそかにこう呟きながら、十日近くも手にしなかった、堅い筆の穂先を噛んでいた。
三
「ふふ、京伝という男、もうちっと気障気たっぷりかと思ったら、それ程でもなかった。あの按配じゃ、少しは面倒を見てくれるだろう。こいつを機に、戯作で飯が食えるように漕ぎ着けざアなるまい――まず正月早々、今年ア恵方が当ったぞ。――」
深川仲町の、六畳一間の棟割長屋に、雪解に汚れた足を洗って、机というのも名ばかりの、寺子屋机の前に端然と坐った馬琴は、独りこう呟きながら、痩馬のようにニヤリと笑った。
「だが京伝は、うまいことをいやアがったな。あんまり調子付いて、盲目の蟋蟀のように、水瓶へ落ちねえようにするがいい。――あれにゃア、猫を被って出かけたおれも、ちっとばかりぎょッとしたぞ。