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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
線上閱讀吉江 喬松《木曽御嶽の両面(きそおんたけのりょうめん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 頁
賽の河原は中々長い、雲の影が明るく暗くその上を照らして過ぐる。如何にも心もとない前途である。河原を上りつめると、一面急峻な偃松帯の中へはいる。径は一縷、危い崖の上を繞って深い谿を瞰下しながら行くのである。ちょっとの注意も緩められない径だ、谿の中には一木も一草もない。ただ赤ちゃけた焼石が磊々としているばかり、水音も聞えない。渓の周囲には太古以来人間の足跡を印した事のない山が続々として群立している。ただ荒れている山だ。それでも次第に雲が晴れ渡って青空が晴朗に輝き暖気を増して来た。
一里ほども下ったかと思う頃、偃松の幾谿を越えて遠くの方に薄い煙が見える。「もう飛騨の国だろうか。」と思うと何となく不思議な国へ来たような気がする。確かに飛騨の国に異いない。
偃松帯を出抜けたかと思うと、径は一層急になって熊笹の中に入る。身長よりも高い熊笹をがさがさと分けて下るが、足とまりは一段一段と段を刻んである。その中には雨水が溜っていて踏むたびに飛び散る。両手で笹を掻き分けるので、三尺離れるともう先行者の姿はその中に没して見えなくなる。立ち留っているとがさがさと音ばかりしている。